大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)205号 決定

抗告人 塩見成吾

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由の要旨は、

「抗告人は昭和三二年二月下旬頃債務者両丹自動車株式会社から福知山市字天田小字談畑二五三番地宅地九四坪六四の全面にある従前の建物を取除きその材料は抗告人が取得し、該地上の南及び東側の部分に建物を建築し、爾余の北側道路に接する部分に無蓋車庫を設置する工事を工事材料は抗告人において提供する約にて請負い、右債務者から本件土地及び地上建物の引渡を受け、爾後引続きこれを占有し、右工事を進行していたもので、本件土地に対する抗告人の占有は右工事請負人たる抗告人自身のためにする意思を以てする独立の直接占有であつて、単に債務者の雇人その他補助者としての占有ではない。しかるに、債務者の本件土地に対する占有を解き執行吏にこれが保管を命じた仮処分の執行として、執行吏が本件土地の占有者が何人であるかについて必要な調査をすることなく、本件土地は債務者の単独占有であると誤認して、抗告人の占有を解き執行吏の保管に付した本件執行行為は明かに違法である。仮に右執行行為が債務者の本件土地に対する代理占有のみを解いたもので、抗告人の占有を解いたものでないとすれば、執行吏は本件仮処分を執行するに当つては相当の留保限定をすべきであるに拘らず、これをすることなく、本件土地を通常の執行吏保管の仮処分物件として公示し、抗告人の本件土地に対する占有並びに工事を事実上停止する執行方法をとつているのは違法である。」

というのである。

よつて案ずるに、抗告人提出の見積書、工事請負契約書、受領書、建築図面、執行調書、証人調書、塩見成吾、衣川鹿治作成の各報告書、現場写真四葉を綜合すると、債務者は昭和三二年二月末頃抗告人に対しその主張の如き工事を請負わせ、その頃右建物を空家にして抗告人に引渡し、爾来抗告人はこれを占有し、同年三月五日から右建物の取毀を始め、同月八日頃から新建築の基礎工事に着手し、その工事進行中本件仮処分執行を受けるに至つたこと及び抗告人は右工事のため債務者の占有する本件土地を使用していたことが認められる。抗告人は本件土地は債務者からその引渡を受け占有権を取得したと主張するが、これを認めるに足る資料はない。ところで、第三者が自己の占有を債務者の占有と誤認されて執行行為を受けたとする場合、第三者に果して占有があるか否かは、第三者が物に対し現実の支配をしているか否かの単純な事実関係によつて決定すべきもので、占有権の有無に及ぶ必要はない。そこで、抗告人の右使用を以て本件土地に対する事実的支配があるか否かについて考えるのに、物に対する事実上の支配関係の存在は結局場所的関係、時間的関係、法律関係、支配意思の存在等を考慮し、社会通念によりこれを定むべきもので、単なる使用を以て直ちに物に対する事実上の支配があるものとすることはできない。ところで、前記認定事実によれば、請負人たる抗告人は右請負建物については自主占有を有すること勿論であるが、本件土地については債務者は抗告人に対し単に建物建築等のために、その期間に限り、債務者の支配下に抗告人をして一時債務者のために使用せしめているにすぎないことが認められ、抗告人は単なる占有被用人にすぎず、独立の占有を有するものということはできない。そうすると、本件土地に対する占有は債務者のみにあるものというべきであるから、債務者の本件土地に対する占有を解き執行吏の保管に付した本件執行行為には何等違法はない。

その他記録を精査しても原判決を取消すべき事由はない。

そうすると、本件抗告はその理由がないからこれを棄却すべく、民事訴訟法第四一四条第三八四条第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 吉村正道 竹内貞次 大野千里)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例